2014.09.09

橋本毅彦先生(東京大学大学院総合文化研究科教授)

インタビュアー:鍾以江

橋本毅彦先生(東京大学大学院総合文化研究科教授)

先生のご専門の科学史研究の角度から、東大の日本研究にかんする意見を聞かせてください。

私は東大の大学院ではフランスの科学史、留学したアメリカの大学院ではアメリカやイギリスの科学史・技術史を勉強し研究しました。日本に帰ってから日本の科学技術史のテーマも取り上げて、内外の学会やシンポジウムで発表しております。日本研究を専門にしている訳ではありませんが、海外の学者と交流していますと日本の科学史も研究している人物だと思われています。日本研究は半人前な訳ですが、東大で専門に日本研究に関わっている先生ともテーマが近づけば共同研究と言いますか、いろいろと教えて頂く機会に恵まれることがあると思っています。
2000年ごろに日文研(日本国際文化研究センター)で共同研究を企画したことがあって、その成果として『遅刻の誕生』という論文集を出版しました。テーマは、近代的な時間規律が明治以降の日本でどのように定着していったかというものでした。学校が八時に始まるので必ず十分前に教室に来なさい、工場も八時から始業するので十、二十分前に来なさい。時間厳守ということ、英語で言えばpunctualityということになります。江戸時代にも、実は、遅参はいけないということはあるのですが、分刻みで時刻を指定して時間を厳守させるということは明治以降になってからのことです。
この問題、近代日本の科学史・技術史を調べているうちに気づいたテーマでしたが、思い切って挑戦しようと思い、日文研の共同研究に申請してみたのです。共同研究としてお願いしたのが、東大の国史の研究室にいらっしゃる鈴木淳先生や現在は社会科学研究所にいらっしゃっている中村尚史先生といった日本研究、歴史研究の研究者の方々でした。 
この時間規律のテーマは、外国人の研究者の関心を強く惹く問題のようです。このテーマの講演をずいぶんいろいろなところでしました。またAIKOMの留学生のための授業でも非常に面白がってはくれています。

科学史の場合、国際的共同研究が多いですか?

日文研で共同研究を毎年企画して、普通数年間続くだけど、この場合一年だけやって、それ以上は負担があって、また面白いテーマを見つかるかどうかとも関係しています。そのあとは、先端研(東京大学先端科学技術研究センター)でイノベーション政策にかんする共同研究に参加したことがあります。 
航空工学の一部である空気力学の歴史ということで、欧米の研究者との共同研究に参加したことがありました。大変いい刺激をもらったことがあります。ヨーロッパに在住している科学史・技術史の研究者の人たちは、国際的な共同研究を大変頻繁に企画して次々にその成果を出している、そんな印象をもちました。

先生の分野から、「日本」をあんまり問題として見ていないかもしれませんが、「日本研究」といういわば知識生産の枠組みにかんしてもしご意見があれば教えていただけますか。たとえば、科学史で日本を如何に語りうるとか。

科学史からみれば、やはり明治以前か明治以降か、ということで検討課題がずいぶん変わってくるように思います。明治以前であれば、和算の発達や蘭学の導入などのテーマが思い浮かびますが、海外では中国に来たイエズス会士、欧米の宣教師の活動の研究が盛んになされています。それと日本との研究は面白いテーマだと思っています。明治以降であれば、日本の近代化とともに進められた西洋の科学・技術の導入についてが大きな研究テーマになりますが、そのようなテーマについて英独仏といった西欧の「中心」各国だけでなく、「周縁」に位置する諸国との比較も面白いかもしれません。「アメリカと比較してみないか」と以前の留学先の大学の先生から誘われているのですが、なかなか考察や研究の準備が進んでいません。いずれ取り組んでみたいとは思っています。

GJS構築に関するアドバイスをぜひ教えてください。

日本研究の専門ではないのでアドバイスをする立場ではないけれど、時間規律の研究経験から言うと、やはり面白く、社会的にも重要な問題と課題を見つけて頂いて、可能であれば学際的、国際的な共同研究を企画して行くことができればいいなと思っています。