2015.06.11

続・「燕京学堂」と国際総合日本学

執筆者:園田茂人教授(東洋文化研究所&東京大学大学院情報学環・学際情報学府)

 ちょうど昨年の今頃、「『燕京学堂』と国際総合日本学」という駄文を発表させていただいた。それから一年。燕京学堂にも国際総合日本学にも、それぞれ変化が見られる。

 まずは、燕京学堂。
 2015年9月の授業開始を前に、すでに学生募集を終えている。公式ホームページによれば、アジアから35名の学生が入学予定となっているが、実はそのうち3分の2が中国国内。近隣地域からは、韓国1名、台湾1名、日本2名と数が少ない。他方で、ハーバード大学から6名、プリンストン大学から4名など、欧米の有力大学からの進学者が多く、今までの中国への留学人流と明らかに異なるパターンを示している。副院長のJohn Holdenによれば、在学時の成績ばかりか、応募者の性格や社会経験などを総合的に重視した結果だというが、入学予定者には中国語がまったくできない者も少なくないという。
 後述する国際総合日本学もそうであるように、燕京学堂も順風満帆だったわけではない。
 最大の誤算は、もともと1年プログラムと発表していたものの、これが教育部に批准されず、結局2年プログラムとなったこと。そのため、最初の1年間は授業を中心にしたプログラムとし、次の1年は論文執筆のためのプログラムにせざるをえなかったという。北京大学ほどの有力大学が、教育部の意向を考慮しないでPRし、あとでこれを修正せざるをえなかったというのは意外だが、上述のJohn Holdenが、論文執筆のためのプログラム運営をめぐって本学との協力関係を模索しにきたのだから、皮肉なものである。

 国際総合日本学も、今年4月に学部生を対象に、部局横断型プログラム「国際総合日本学教育プログラム」を発足させた。基幹科目と展開科目がそれぞれ用意され、全学交換でやってくる留学生たちも履修できるよう、準備が整った。海外の提携校にGlobal Japan Studies Programについて説明をすると、総じて反応はよい。昨年採択されたスーパーグローバル大学創生支援事業における本学の取り組み(東京大学グローバルキャンパスモデルの構築)への審査結果表では、「英語で『日本』について学べる『国際総合日本学』が開設されることは評価できる」とのお墨付きも得た。
 ところが、日本の大学改革が「接ぎ木型」であるため、投入できる資源が限られているといった決定的な弱点がある。部局横断型プログラムとして認定されたといっても、教育プログラムは独自予算をもっていない。東洋文化研究所を拠点にした研究プログラムに至っては、手弁当で作業をしている有様である。John Holdenは、筆者との会話で「華人が多く寄付をしてくれたが、そのため潤沢な予算をもつ」といっていた。そればかりか、「寄付者は使用目的や具体的なプログラム内容に、ほとんど何も注文をつけなかった」というから、何とも羨ましい限りだ。

 強烈なリーダーシップで物事を進めるから強い反発も受ける、北京大学の燕京学堂(昨年5月の披露セレモニーの後、学内から強い反発が生まれたことは、よく知られている)。学内ルールを最大限尊重しながら進めるから、強い反発を受けることはないが、その分強く支持・支援されることもない本学の国際総合日本学。どちらがよいプログラムなのかは、これによってどのような人材を輩出し、どのような研究成果を上げたかによって判断されることになるのだろう。