2014.06.12

「燕京学堂」と国際総合日本学

執筆者:園田茂人(東洋文化研究所&東京大学大学院情報学環・学際情報学府)

 

 2014年5月5日、北京大学の英傑交流センターで”The Future of the Research University in the Age of Globalization: Innovations in Talent Cultivation”と銘打った国際シンポジウムが開催された。ICT技術が発達し、学生のリクルートが世界規模で行われるようになった研究型大学で、どのようにして学生の育成を行うべきか。またどのような戦略から、研究教育を進めるべきか。こうしたテーマのもとに意見交換がなされたのだが、ソウル国立大学や国立シンガポール大学、成均館大学、香港大学からは総長が、ベルリン自由大学やメルボルン大学、スタンフォード大学、ハイデルベルグ大学などからは副学長クラスが、それぞれ参加するなど、アジアの有力大学の熱心さが傑出していたのが印象的だった。
 もっとも、このシンポジウムは壮大な前座だった。真打ちは、同日の夕方、同センターで実施された「燕京学堂」の披露セレモニー。世界中から集められた大学関係者は、この新しいプログラムの発表会に招待されていたのである。
 すでに同プログラムの概要についてはホームページで紹介されているため、多言は不要だろうが、さしあたり、同プログラムが、(1)清華大学が始めたシュワルツマン奨学金プログラムを意識したものであること、(2)清華大学のプログラムが民間資金によるアメリカ人の知中派育成を念頭に置いているのに対し、政府助成を基礎とした中国人学生を対象にした英語プログラム的色彩が強いこと、(3)清華大学のプログラムが経営管理など実学を中心にしているのに対して、人文系の学問を中心にした中国理解を目的としたプログラムとなっていること、などを指摘しておく必要があるだろう。
 披露会やレセプションでの北京大学の要人たちの発言から、中国が世界の知性を大学に呼び込むのだという強い意志が伺えた。また「世界には中国に対する誤解が拡がっているのを是正したい」「中国語だけでなく、中国の歴史や文化を理解した世界のエリートを育てたい」といった発言に、「屈辱の近代からの脱却」し、「中華民族の偉大な復興」をめざす文化ナショナリズムの匂いも感じられた。
 毎年100名を世界中から募集する1年プログラムの「燕京学堂」は全寮制で、しかもその多くが多額の奨学金を得る超エリート教育プログラムである。本学からの参加者も完全に当て付けられてしまって、「本学でも、同じ試みができないか。できるようなら、一生懸命、企業回りをして寄附を集めるのだが」と唸っていたが、果たして国際総合日本学は、どのような教育プログラムを提供することになるのだろう 。
 中国一流の派手な披露セレモニーに参加して、そんなことを考えた。