第21回GJSセミナー(第142回東文研・ASNET共催セミナー)満洲国における「国籍」創出をめぐる葛藤―地縁社会と対峙する日本の「国民」観念
日時: | 2016年6月16日(木)16:00~17:00 |
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会場: | 東京大学東洋文化研究所 1F ロビー |
発表者: | 遠藤正敬 (早稲田大学 台湾研究所 次席研究員) |
使用言語: | 英語 |
発表概要: 本報告では、満洲国統治における「国籍」の創出をめぐる政策過程を検討し、満洲国というトランスナショナルな空間のなかで浮かび上がった近代日本における「国民」観念の特質を明らかにしたい。
日本の帝国支配を貫いていたイデオロギーは、「万世一系」の天皇が「家長」として治める日本という「家」にすべての民族が「子」として包摂され、「皇化」するという家族国家思想であり、これが拡大されて「八紘一宇」の思想となった。そうした日本の「国体」の観念を支えるものが血縁の証明となる戸籍であった。
1932年に日本が樹立した満洲国では、建国理念として漢族、満洲族、モンゴル人、日本人、朝鮮人の「五族」、それに白系ロシア人などが平等な立場で建国に参加する「民族協和」が掲げられた。「単一民族」志向に立つ血縁社会国家を理想としてきた日本は、満洲国統治において人種、民族、宗教、家族慣習などの重層的な境界が交差する多元的社会に直面し、地縁社会に基づく国家建設が求められた。満洲国における国籍、そして戸籍をめぐる政策は、日本が未経験であった多民族・多文化共生国家を模索する試金石といえたが、それはいかなる帰趨をたどったのか。第一に、国籍法の立案における諸民族の国籍の扱いや、出生地主義と血統主義の対立について論じる。特に日本人の国籍は、「皇国臣民」の証しである戸籍と切り離せない問題であった。さらに、朝鮮人の国籍は、日本の朝鮮統治の根本にかかわる問題であった。第二に、満洲国の「国民」意識を醸成する目的から必要とされた国民登録法の問題について取り上げる。いずれも「民族協和」の理念との妥協と衝突を伴う争点であった。社会的亀裂を与件とする満洲国において地縁的「国民」を創出する上で、日本の「国民」観念はいかなる矛盾に行き当たったのか。
共催:東京大学東洋文化研究所 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク(ASNET)
問い合わせ:gjs[at]ioc.u-tokyo.ac.jp