終了

第2回 GJSセミナー盗賊たちの栄誉―『自来也説話』におけるテクストの革命

日時: 2014年7月24日(木)16:00-17:00
会場: 東京大学東洋文化研究所 3階大会議室
講演者: ケヴィン・ムルホランド氏
(ミシガン大学博士候補生/東京大学東洋文化研究所訪問研究員)
使用言語: 英語
第2回 GJSセミナー 盗賊たちの栄誉―『自来也説話』におけるテクストの革命

要旨:
今日では「自来也(児雷也)」は忍術や蝦蟇と無関係に考えられないが、本書が日本文学において最初に著された際には勇敢な盗賊(義賊)が奇妙なほど栄誉を持って語られた。本発表では、『自来也物語』もしくは『自来也説話』に見られるテクストの展開を追究することによって、文学研究の基礎的な関心であるテクストの本質について検討したい。山東京伝の『忠臣水滸伝』や曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の影に追いやられながらも、感和亭鬼武の『報讎自来也物語』(1806年)ならびに『自来也物語後編』(1807年)は転換期にある近代初期の日本の物語の分野において重要な位置を占めている。これら二編の成功は、近松徳三の『柵自来也談』(1807年)や『歌舞伎精巧戯棚之修飾自来也物語』(1809年)のような劇作版を生み出した。これらの演劇の上演は、人気の絶頂となった合巻の『児雷也豪傑譚』(1839-1868年)など「自来也」に新たな息吹をもたらすこととなった。およそ三十年におよび『児雷也豪傑譚』は感和亭の原作という原型を意識してはいたが、主人公である「自来也」の本性は合巻というメディアの流行や連載への要求に合わせて変化していると言える。これらの「自来也物語」がさまざまな形で表現化されていったことに鑑みて、口承文学などの語り物や小説という形式のうえでの関係性、物語の構成において江戸や大坂の間で出版交流の果たした役割、版本と演劇との相互関係、主人公の本性を再構築することとなった言葉と視覚の両者に訴える浮世絵の影響など、近代初期の日本文学が19世紀を通じていかなる改変を遂げてきたのかなど、さまざまな視点を明らかにしてみたい。