国際総合日本学と「評価」
園田茂人(東洋文化研究所&東京大学大学院情報学環・学際情報学府)
日本の大学は、この十年ほどの間に「世界大学ランキング」という亡霊に取り憑かれるようになった。
文部科学省が競争的資金の枠組みを利用して、人文社会系学問を含めた拠点形成事業に着手するようになったのは2002年の21世紀COEプログラムが最初だが、当時目標とされていたのは「国際競争力のある個性輝く大学づくり」であって、具体的なランキングは明示されていなかった。この後継プログラムであるグローバルCOEプログラムがスタートする2007年時点で、すでに『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』による世界大学ランキング事業は開始されていたが、それでも、あくまでその目標は「国際競争力のある大学づくりを推進すること」とされていた。
ところが2014年に始まる「スーパーグローバル大学創成支援」事業では、「『大学改革』と『国際化』を断行し、国際通用性、ひいては国際競争力の強化に取り組む大学の教育環境の整備支援」が目的とされ、タイプAは「世界ランキングトップ100を目指す力のある、世界レベルの教育研究を行うトップ大学を対象」とするといった具合に、具体的な目標値も掲げられるようになった。
国際総合日本学も、こうした潮流と無関係ではいられない。それどころか、日本研究を媒介にした世界との連携や新しい研究領域の開拓を目指す本プログラムは、本学が置かれた知的な磁場に大きく影響されている。
競争力強化を謳う環境にあって、「評価」は必要不可欠な要素となる。競争的資金獲得のためばかりか、研究環境の基本的な整備のために使われる運営費交付金の交付にも、外部評価は大きな影響を与えるようになってきている。
幸い、東洋文化研究所での外部評価にあって、国際総合日本学の評判はすこぶる良い。従来の「アジアと日本」といった視点から構築されてきた東洋学/アジア研究を「アジアの中の日本」という視点から組み替えることになるし、何より国際的連携を強く意識したプログラムのミッションが評価されているようだ。
また所外での評価も概ね良好である。「スーパーグローバル大学創成支援」事業への申請書へのコメントで、国際総合日本学が肯定的に評価されたことは、以前のエッセーで指摘したが、本学の「指定国立大学」への申請書でも、国際総合日本学への言及がなされている。
もっとも、だからといって大規模予算が保証されるわけではないのが辛いところだが、少なくても事業継続のための最低限の資源が確保されることになり、そのための管理体制の整備が求められることになる。従来、東文研内で「手弁当」でなされてきた運営も、来年度から正式に委員会によってなされることになり、予算執行を含む諸活動もより制度化されることになる。
こうした制度化が、学問的発展のために凶と出るか、吉と出るか。評価されているのはプログラムの内容以上に、私たちの姿勢なのかもしれない。